「畑の貴婦人」

突然の大揺れであった。昨夜の午前2時頃家全体が激しく揺れ出したのだ。「地震だ!!」ベッドから飛び起きた鉄人が真っ先にやったことは、二階に寝ているかみさんに「動かずにじっとしてろ!!」という三階からの注意だった。
その時の鉄人は極めて冷静で恐さもなかったのだ。さすがに仏教を日頃学んでいるだけある。というのは真実ではなく、実はただ寝ぼけていて現状があまり把握出来ていなかったのだ。
ただそこから本格的に目が覚めた。「これは南海トラフかもしれない」そう思った鉄人は、直ぐにかみさんにテレビをつけさせた。震源地は伊予灘沖で南海トラフ地震ではなかった。
広島は震度4、死者はいなかった。とりあえず一安心はしたのだが、やはり地震は何時何処で起こるかも分からない、地震の怖さを改めて思い知らされたのである。
我家の被害は食器棚の皿とグラスが一枚づつ割れていた。どちらかというと食器の積み方に問題があった様だ。
考えてみれば愛媛の佐多岬半島には伊方発電所という原発がある。今回の震源地の目と鼻の先である。さらに中電は近接する山口県の上関に原発を何としてでも造ろうと長年画策している。
今回の地震は震度5弱が最大であったが、それ以上の地震が来ないという保証は何処にもないのだ。南海トラフ地震は、今後30年以内に70%の確率で起こると言われている。
一度それが起きれば、最悪のケースでは、その被害の大きさは東日本大震災の比ではない。最近各地にある原発の再稼働が本格化してきているが、ほぼ確実に起きると言われている大地震を前にしてのこの動き、全く狂気の沙汰としか思えない。
原発の電気は安いと言われるが、福島の原発事故の後始末に今後何れだけの予算が掛かるか見当もつかないのだ。安いどころか大損。更に命さえも取られかねないのである。どう考えても間尺に合わない話しではないか。
日本は地震列島である。剣先で生活している様なもので何時何が起きても不思議ではない。そんな国でそのリスクを増長させる様なことを平気で行う愚かさ。仏教の根本的教義は、「因果応報」である。今起きている結果には、そうなる原因が確実にあるのである。そして今起きていることは、それが原因になって未来に必ずその結果をもたらすのだ。
その結果をもたらさない為には、原因を作らないことしか方法はない。そう考えれば現状を把握すれば既に結果が見えていることになるのである。
最後に、朝、母親に安否の電話を掛けてみた。
母 「え〜っ?昨日は教会に行ってたけど〜ぉ」
鉄人 「?」「地震だよ、大丈夫だった?」
母 「地震?何時ぅ?」
鉄人 「夜だよ、2時頃」
母 「え〜そうなのぉ?」
暴睡していたのである。あれだけの地震に母は全く気づいていなかった。やはり母には勝てないと、かみさんとまじまじと顔を見合わせた。
推敲して一句。
小窓開け 梅が香寄すや 朝支度 こまどあけ うめがかよすや あさじたく
鉄人